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ケニアの子どもの絵

荒川勝巳

私はケニアで「サイディアフラハ(NGOで児童養護施設・幼稚園・小学校・裁縫教室を運営)」という名の子どもと女性のためのプロジェクト活動にたずさわっています。始めてからすでに25年になりますので、その間にプロジェクトの子どもたちが描いた絵を集めて、咋年日本で絵画展をし好評でした。その中から3点ご紹介します。


ロリンの絵
ロリンの絵

ロリン・アティエノ(2008年・小学校8年生・女児)

 

私の大好きな絵で、何とも不思議な「ウイーン幻想派」の素描のよう。もちろんロリンは自分の気持ちを率直に描いただけなのでしょうが。その当時、ロリンのお父さんはすでに不治の病で亡くなり、お母さんも同じ病で苦しんでいました。ロリンは4人兄妹の長女として、仕事に出て疲れたお母さんの代わりに家事手伝いをこなしています。だから家での自習時間がないのですが、そのわりには成績が良く、まじめ。小学最終学年の8年生なので彼女は高校(セカンダリー)に行きたいのですが、家に進学のお金がなく困っていました。我々サイディアフラハはこんな彼女を何とか高校へ上げたいと考え、支援してくれる方を探して、ようやく見つけ出しました。この絵は我々が彼女へ高校進学できるという話しを告げた4日後に描かれています。この絵に描かれたまなざしは自分の希望のある将来へ向けているように思われて仕方がありません。その後ロリンはよい仕事を見つけ結婚もして女児が生まれ、時々三人でサイディアフラハの児童養護施設へプレゼントを持って慰問に来てくれています。


パナイの絵
パナイの絵

パナイ・ディレカ (2005年・小学校5年生・男児) 2005年作

 

私はこの絵を最初に見た時、緑を画面いっぱいに塗っているだけと思って、すぐに放り出しました。しかしあとでよく見ると、釘か何か鋭い刃物で、その緑をひっかき、下の白地を浮き上がらせている。そこから野生動物や樹木が立ち現れてくる。ケニアにある民芸品の動物などで、削りやすい白い石に色を付け、それを刃物で線刻し白地を出すテクニックがあることはあるのですが。この絵はマサイ人の男の子、パナイが13歳の時に描いた作品。彼は遊牧している時にこの着想を思いついたのだろうか?パナイは7,8歳の頃、アル中の父親にサイディアフラハへ連れて来られ、「この子はなにも教育を受けていないので、幼稚園に入れてくれ」と懇願されました。彼は片腕を幼い時に病気のため?切断されて、片腕だけ。我々は彼を半年間幼稚園に入れ、それから小学校へ入学させました。その後、彼はなんとか高校を卒業したものの仕事が見つからずブラブラしていたので、サイディアフラハで「幼稚園先生」見習いとして雇いました。しかしその後、彼はキテンゲラにある大手スーパーで雇われました。彼はまじめだし、いまケニア政府は企業がハンデキャップの人を雇うことを奨励しているので、雇ってもらえたのでしょう。


シャロンの絵
シャロンの絵

シャロン・ワルケラ(2013年・小学校1年生・女児)

 

この絵は一般的には抽象絵画の部類に入るものです。ですからいったい何が描かれているのかよくわかりません。シャロン自体も自分で何を描いているのか分からなかったことでしょう。しかし私はこの絵を見ると、非常にワクワクします。おそらく彼女もこの絵を描いている時にワクワクして描いていたのではと筆のタッチから感じます。丸い外枠はある人によると「宇宙を表す」とのことです。手前みそになるかもしれませんが、もしかしたら、彼女はサイディアの施設を描いているのでは?シャロンは適切な保護者がいなく、サイディアフラハ児童養護施設に入って暮らしていました。施設の規則として、なにか特別な用事がなければ施設の外に出ることができません。しかし中にいる分には食事を十分に摂ることができ、学校にも入れてもらえるし、安全に過ごすことができます。そして同じような境遇の仲間といっしょに仲良く遊ぶこともできます。中にある小さな丸はその子どもたちではと思うのです。シャロンはいま施設を出て、親せきのもとで無事に暮らしています。