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「ガザの画家来日に寄せて」

画家 上条陽子(かみじょうようこ)

 2017年 米国のトランプはエルサレムを首都と認定し、ヘブロン世界文化遺産に反対しユネスコ脱退宣言した。イスラエルのネタニヤフが続き、その上トランプはヘブロン入植を認めた。パレスチナに対する弾圧と圧力は目に余る。黙ってじっとしてはいられなくなった。

 パレスチナのハートアートプロジェクト(PHAP)は2019年1月日本とガザの画家三人の交流展を相模原市民ギャラリーで開催すると同時にガザからソヘイル、ハワジリ、イサの三人を日本へ招聘することを決めた。幸いに賛同者130人も加わってくれた。

 作品の搬入(輸送)滞在のためのビザ取得は非常に難しく2%の可能性だと言われたが、あきらめず挑戦することにPHAP一同ファイトが沸いてきた。

 私がガザに関わることになったのは、1999年針生一郎氏命名「東京からの七天使」に参加したことだった。エルサレム、ラマラ、ガザを7人の画家の展覧会が巡回した。

 約40日間パレスチナに滞在しその間イスラエルにも行き両国の現状を知ることとなった。道路一つ隔てて国が別れ、イスラエルは日本や欧米諸国と変わらず豊かで美しい街並み、美術館もあり野外彫刻が並んでいる。 道一つ隔て反対側のパレスチナの貧しい暮らしを目の当たりにした。

 エルサレムの画廊で我々の作品を展示後、机を並べそこへ子どもたちが絵を描きにくる。授業が二部制の午前、午後で時間がない学校で教えられないので画家達の指導で大勢の子どもたちが次々絵を習いにやってきた。

 テントの中で女性や老人達が座り込んで拘束された息子や夫の帰りを待っている、入植で家や土地を奪われた家族が路上に据わりこむ人々。差別、格差、貧困、不自由、屈辱、人権侵害を感じこんなことがあってはならないと思った。

 更に現在では当時なかった壁がテロリスト(パレスチナ人)から身を守るためとして8×2mの巨大な壁が数キロに渡って造られパレスチナ人の土地を分断し、自由を奪い、生活を困難と苦しいものにしている。

 ガザの展覧会場で出会った若いソヘイルに赤の絵具をプレゼントしたところ日本人全員、彼の家に招待された。宿泊していたマリナハウスへ大勢の若いアーチスト達がやってきて交流が始まった。彼達は絵画に関心があり、自由に外国に行けず日本人に会い話が出来てうれしいと言われた。

 

 2013年再び私はガザで子供たちに絵を指導するため訪れ、ソヘイル達と15年振りに再開した。彼は40才になり結婚し子どもが4人もいると話した。彼から画廊に来て欲しいと言われそこでハワジリやイサ達が若い人達に絵の指導をし、育てているのを知った。画材もままならない劣悪な環境の中頑張って沢山の作品を描いていた。

 ガザにはエレツ検問所(イスラエル側)とラファ検問所(エジプト側)の二ケ所があり、人の出入、物品の自由もなく、周囲は壁に囲まれ屋根のない刑務所と言われ200万人が暮らしている。飲み水、ガソリン、石油等凡てイスラエルの管理下にあり地中海に面した海で自由に漁は出来ず小魚しか捕ることが出来ない。水道の水は塩辛いので飲料に適さない。未だにロバと馬に頼っている。

 ところで1月奇跡的に彼等の作品が送られてきて会期に間に合った。展覧会は熱気にあふれ無事終了したが彼達の姿はなかった。私達はビザ取得をあきらめずガザとのやり取りに専念した。その効あってか幸運にもビザが下りたのだった。取得に5ヶ月の時間と労力とお金を要した。

 彼達三人(ソヘイル ハワジリ イサ)がラファのゲイトからカイロまで40回の検問をうけ4日間かかって成田に到着した。夢が現実になり皆で喜び合った。28日間の滞在期間に我々はあわただしく受け入れ準備をしなくてはならなかった。幸いにも多くの支援と協力に支えられた。

 東京大学、京都大学、ギャラリーしみず、広瀬川美術館、相模原桜台小学校等で展示、トークと映像が行われた。

 これらの催しを通じてガザの現状を知り、彼達の生の声を聞く機会となった。 ビデオを通してイサは2014年の攻撃で家を破壊され散乱した作品の中絵を描いていた。ハワジリのゲルニカ・ガザは名画の中にパレスチナの現状をコラージュし、レッドカーペット赤いじゅうたんが砂浜から海に敷かれ海上に浮かぶ開かれた扉はパレスチナの人達が世界に自由を求めている心情を強く印象づけた。ソヘイルのモノクロームの心象風景、傷ついた腕、手、足も心に残った。

 

 彼達は日本に来れたことに多くの皆様に感謝している。ガザは常に飛行機が飛び攻撃にさらされて子どもたちはおびえている。日本にきて自由を感じた。この自由をガザに持って帰りたいと語った。

 残念なことにこの11月トランプはヘブロンの入植拡大を認めた。パレスチナの人々の怒り、苦しみ、憎悪は増すだろう。土地を奪い、人種浄化を進めているトランプとネタニヤフの政策はますます和平から遠ざかる暴挙でしかなく、パレスチナに救いはあるのだろうかと思う。


上条陽子 画歴           

1999年 パレスチナ巡回展  エルサレム・ラマラ 「東京からの亡天使」に参加 ガザ  

2001年~10年  レバノンのパレスチナ難民キャンプで子どもたちに絵画指導を始める

2011年 シリア内戦により渡航禁止となる 子どもたちの作品約2000点収蔵

2013年 ガザ 4日間だけ子どもに絵の指導で行く ソヘイル達と再会 エルサレム、ベツレヘム、ヘブロン等を訪ねる

●安井賞受賞 ●文化庁在外研修員

主な個展 横須賀美術館 田川市美術館 石川県立美術館 池田29世紀美術館


Mohammad Al-Hawajri モハマド・ハワジリ

1976年、ガザ、ソレイユ難民キャンプで生まれる。国外の多くの国から展覧会に招待される。作品はコレクションされている。

Sohail Salem ソヘイル・セレイム

1974年、ガザで生まる。アルアクサ大学美術学士号取得。フランス他、国外から招待出品。

Raed Issa ライエッド・イサ

1975年、ガザの難民キャンプで生まれる。

ガザの現代美術エルチカグループの創立者の一人。国外で活躍。イタリアローマの国際美術賞を受賞

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コメント: 1
  • #1

    本多弘司 (月曜日, 14 6月 2021 00:54)

    6月13日のNHK日曜美術館を見て、「感動」しました。相模原なら行けたけど、北海道はちょっと遠いです。同じ人間が、平和、自由、人権、命を脅かされている、ガザの現実に目を向けなければならないと思いました。ミャンマー軍事政権、香港の民主化弾圧も、心が痛みます。人間はどうしていがみ合うのか?どうしたら良いのか?私に何ができるのだろうか?