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「あいトリ展示中止事件」とは、何だったのか?

編集:木村勝明

 あいちトリエンナーレに行ってみた。

 2019年10月9日のことだった。(10月14日が最終日) 展示中止となっていた企画展の、制限された再開と、権閲に抗議して展示拒否した十数点・組の再開展示を見るためであった。抽選による企画展の鑑賞ツアーは限られた人数で、落選者は多く、私も落選したが、当選してツアー参加の吉岡さんに、感想をもらう

 しかし、そもそも『あいちトリエンナーレ』その全体像はどんなものだったか?国内最大級の国際展は、名古屋市・豊田市で行われた。8月1日に開幕、10月14日が最終日。総入場者数67万546人(1日あたり8940人の入場者)

 会期中、テレビなどワイドショーで、あいトリを見もしないタレントやら学者らが批評して、多くは嫌韓の現政権の尻馬に乗って、酷いものであった。「表現の自由」の概念の重さや深さなどわからない人らが、騒ぎ立てていた。

 勿論、鋭い発言をする識者と、「美術家連盟」「美術家評論家連盟」なども展示中止批判の声明を出したし、日本美術会は美術団体では「表現の自由を守れ!」という展示中止反対の声明を出している。

 戦後の美術関係の事件としては最大の反対声明が各団体・グループから出され、その広がりは大きかった。国際現代美術展出品作家72組が抗議声明を出し、海外作家計11組が展示の中止、一部変更などする。その後2組が増え、13組が参加しての抗議行動がされた。  

 

「表現の不自由展―その後」

実行委員会は、裁判所にその不当性を訴え、再開を求める仮処分を名古屋地裁に申し立てをした。30組以上の作家が全展示再開を目指すプロジェクトを開始。検証委員会が中間報告を発表して「再開を目指す」と表明。次の日には文化庁が補助金の不交付を決定。大村知事は裁判で争う方針を示す。

 

「文化庁は文化を殺すのか!」

 文化庁の補助金不交付という高圧的な処置に対して、「文化庁は文化を殺すのか!」というスローガンと共に再び反対声明、SNSを利用した署名など広がり、短期間に10万を超えた。幅広いグループでひろがって、海外にも広がった、美大の先生の全国的な署名活動、大学研究者にも広がった。実際文化庁の補助金審議委員の中で話し合われた証拠もなく、政権からのごり押し、憲法違反の疑いがある。審議会の議長は抗議して辞めている。その後の国会で文化庁長官の答弁は政権への忖度そのものだった。萩生田文科相の言い分は権閲に相当、憲法違反の疑いが濃厚であった。大阪松井市長・名古屋河村市長などのヘイトクライムな慰安婦など居なかったという歴史修正主義の発言は、電凸と言われる嫌がらせ電話、テロ予告などを助長し、それを止めようという発言の無い自治体の長としてのヘイト発言は、「日本会議」などへの同調と、安部政権から仕掛けられていた、嫌韓の世論づくりの一環の白色テロとして、民主主義への攻撃だった。そして改憲の意志をたびたび言う安倍政権の改憲の目指すところは、ジェンダー平等、小数者の人権、多様性への攻撃にあることを知らしめる事件であったのではなかったか?

 

戦後の日本の民主主義全体への容赦のない攻撃とみるべきだ。

 今号の特集として、「美術運動」の創刊号からの歴史に誇りを持ってこれを企画する。そしてこの展示中止事件は闘いの途上にある、この編集中にも変化発展しているわけである。したがって5名の識者の視点はいろいろな地点からの発言となっている。読者は此処から学び発見し、そして論議し、連帯しようと言うのが編集の趣旨です。

 多くのあいトリ出品者・関係者・展示中止反対・文化庁補助金不交付に抗議した方々と「美術運動」誌は連帯します。


あいちトリエンナーレ2019 情の時代

AICHI TRIENNALE 2019:Taming Y/Our Passion

2019年8月1日-10月14日(75 日間)

A 愛知芸術文化センター 

N 名古屋市美術館 

S 四間道・円頓寺 

T 豊田市美術館・豊田市駅周辺 

の4 地点が会場