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常田健 土蔵のアトリエ美術館

山田 裕子

常田健 土蔵のアトリエ美術館

 常田健は、自ら林檎園を営み中央の画壇に属さず、人に見せるためでも、売るためでもなく黙々と描き続けたという。その痕跡は寝起きしていたアトリエ代わりの土蔵にあった。素描、小品、描きかけのキャンバス、絵の具、パレット、すり切れた筆、バッハの曲の流れるなかで描いていた様子が偲ばれ、時がそこでは止まっていた。中二階のベットまわりにもスケッチがありその間に喘息の吸入薬があり親近感をおぼえた。 色々な事をかかえつつ、常に描いていたのだろう。描く事、すなわち生きることと語っているようだった。

  展示室の展示を観た時、まず、力強さに圧倒された。題材は、身近なことがら、田植え、稲刈り、林檎の収穫、漁師、かがんだ丸い背中、太い足、太い腕、力強いがどこかユーモラスなデフォルメにあたたかな作者の目を感じた。母子像、母親の首も腕も太く赤子はまるまるしている。大地に根差す生命力にあふれていた。向日葵と青い空、東北の短い夏の光と、赤子の笑い声が聞こえるようだった。 戦後、小作農へ土地を渡し、自らも林檎つくりをして風土に根差し、風土を描いた作品は多くの人々に愛されているのだろ。

 『ひこばえの木』、玉岡かおる氏が常田健の生き様に取材し語られた小説だ。

 ひこばえとは、樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のことだ。命が親から子へ孫へ受け継がれること、常田健は、描く事でひこばえを残した。 常田健の生き様がひこばえに擬えて歴史の中で物語られている。生誕110年に際し玉岡かおる氏により、林檎の木にひこばえの樹との命名式が行われた。歴史の中で、繋がる生命について改めて考えた。

 このイベントへ立ち会えた事で本州の最北端、過酷な時代と過酷な自然の中に生きた画家の残したものを見て感じることができた事に感謝している。表現者は、何のために何を表現するのか何を表現していくか考えさせられた。

 常田健美術館では、今回のイベントのほか、画像の絵を描くコンクールなど地域密着のイベントも行っている。また、コロナ蔓延のためなかなか難しいがフランス展の計画もある。地域活性化と、海外進出などますます発展していくだろう。 別の作品の展示のとき、違う季節にまた訪れてみたい。

 

常田健 土蔵のアトリエ美術館

〒038-1325 青森市浪岡北中野字氏も嶋田48

℡0172-62-2442

開館日:火曜日~日曜日

問い合わせ info@ken-tsuneda.com


山田 裕子 Yuko YAMADA
玉川大学芸術学科卒
昭和、平成、令和と活動 AU インパクトアートへ参加 NCアートギャラリー現在小野純一画廊よりめぐちゃんを発表、その頃より海外のアートフェアへ出品 同時に、インスタレーション、身体表現を行う。、NPO法人湘南芸術研究所を立ち上げ、新たな発表の仕方や芸術のあり方を模索している。