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レオナルド・ダ・ヴィンチ展を見て

大塩幸裕(おおしお ゆきひろ)美術家・美術運動:編集

「マリアの頭部」(「聖アンナと聖母子」部分習作)
「マリアの頭部」(「聖アンナと聖母子」部分習作)

 2019 年10 月から 2020 年 2 月にかけて、没後500 年展として開催されたレオナルド・ダ・ヴィンチ展(ルーヴル美術館)を見ることができました。1.光、影、浮き彫り 2.自由 3.科学 4.生涯の4部構成。レオナルド本人による素描や彩色画、および図や文のびっしり書き込まれた手稿類はもとより、初期に師として学んだヴェロッキオらの作品。そして最近の研究の成果物としては、徒弟時代に素描練習に用いた、衣服のひだを粘土で固めたモデル(伝記に基づく再現)や彩色画の赤外線写真も加え、レオナルドの全体像に多角的に迫る、全179 点の展示でした。

 

 レオナルド自身が特に重視した絵画について、展覧会パンフレットの序文には「レオナルドによる絵画への革命的アプローチとは何か? 要約してみよう。彼の描くものは、光と影の作る無限の空間の中で生命感を宿している。彼は類まれな自由をもって線描や彩色の技法を発展させることで、描くものに自然な動勢を与えた。彼は視覚的真実を追求し、絵画をして実在する世界の全てを写し出す、普遍的な科学たらしめようとした。」(試訳:大塩)とありました。

模写(「聖アンナと聖母子」大カルトンより)
模写(「聖アンナと聖母子」大カルトンより)

 第1部の展示の中では初期のドラペリーの素描群―立位あるいはひざまずく人物の衣のひだを描いたもので、本人の作7点(本人またはヴェロッキオの作とされる 3 点も加えれば10点)―に注目しました。画家修業の基本研究、あるいは彩色画の習作とされたものでしょうが、その中に、作者の「見ること、描くこと、考察すること」の三者を不可分一体のものとして追求しようとする姿勢が既に強く現れているように思われました。

 第4部の展示では、1500 年頃に構想を開始し晩年まで制作をつづけた、「聖アンナと聖母子」に関する展示が圧巻でした。最終的な油彩画に加え、全体の構成案のスケッチや、各人物の顔、腕や衣服の部分の案のデッサン、赤外線写真の計11点が展示され、試行錯誤のあとがうかがえました。

 

 私としては、その中の「聖アンナと聖母子」の大判の素描(ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)をスケッチブックに縮小模写し、作者の制作過程の一端に触れる思いができたことも嬉しいことでした。会場内はすべて写真撮影も自由。多くの鑑賞者がスマホで思い思いに展示作品のあれこれを撮影していて、シャッター音の嵐。「芸術はみんなのもの」と実感される楽しい空間でもありました。