平和美術展が60周年

根岸君夫

平和美術展が60周年を迎え、改装後の東京都美術館において記念展が開催された。私はその実行委員長という大役を負わされ、新たな気持ちで取り組んだ。さいわい、諸氏の援助と協力を受け無事終了することができ、今、ホッとしている。そのような関係で、同展についての報告とともに、私個人の見解や思いも含めて一文を書かせていただくこととした。


今回展は、改装後の都美術館の新条件を如何にクリアして、3年ぶりの復帰を円滑に果たすか、その上で、60年という節目の年にふさわしい盛り上げを如何に実現するかという二つの課題を負ったものであった。


横浜赤レンガ館での2年間の仮住まいは、いくつかのマイナス要因によって出品者の減少をもたらしていた。これを挽回し、さらに押し広げることが成功のための最大の条件であった。このために、会員個々の知人への働きかけなどの他に、友好後援団体や報道機関回りその他の努力の結果、近年を大きく上回る出品者312人(前年比32%増、3年前との比でも6.5%増)、点数627点という結果を得た。初出品が57名に上り、アンデパンダン展その他で活躍している有力作家の新たな参加や復帰も見ることができた。

 

出品作品は、大震災や原発問題をテーマとした作品が相当数(2割強)に上り、さまざまな切り口でこの問題に迫ろうとする意欲が感じられた。また、戦時の悲惨、政治腐敗や社会の矛盾への怒り、日常生活の中の喜びや悲しみ、穏やかな環境への憧れ等、それぞれの思いを込めて作品と向かい合った作者の姿が忍ばれた。
都美術館は壁、床、証明その他の改装とともに、借館規定も改め、大団体以外は使用期間が大幅に短縮された。その上、館企画先行のため彫刻室使用が認められず、立体作品をふくむ展示は難題であった。スペース配分の不均衡など、今後に課題を残した。


第1室に設けた特陳「ポスターに見る歩み展」(歴代ポスター・年表・資料展示)は、初期の運動を担ってきた大家の顔ぶれの多彩さとともに、世界的巨匠も連帯した(ピカソやレジェがポスターや出品目録表紙に作品を提供した)画期的な大運動であったことを示していて、平和美術展の存在の重みに多く来場者の感嘆と驚きの声が寄せられた。
会期中の催しとして、ギャラリー・トークが3年ぶりに復活、小番つとむ、武田昭一、岩外雄弌、竹富喜美子、望月翠山、東  静可の諸氏が自作を前に発表、140人の参加で充実した研究の場となった。他にもジャンル別交流集会、出品者懇親会も有意義に楽しくおこなわれた。森  芳雄氏の提案で7回展から始められたという被爆者肖像画は今年8氏の像が展示された。記念作品集発行は年内完成予定。入場者数は、8日間という短期間であったが、3800人を超え前回を大きく越えた。この展覧会のために力を尽くされた会員・出品者・鑑賞者の皆さんに心から感謝したい。

平和美術展(初回は「平和のための美術展」)の発足は1952年6月であったが、この前後の日本は、アメリカの対日政策の変更に沿って、戦後わずか数年で反動化の波が高まり、非戦の憲法にそむいて、再軍備への歩みが始められていた。労組弾圧、レッドパージの嵐が吹き荒れ、国際的には朝鮮戦争が大国を巻き込んで行われていた。


箕田源二郎氏の回想によると、「51年に作られた美術家懇談会という組織が母体となって、平和展委員会が作られ‥‥」「日美も‥尽力することは当然として協力を決めた‥」(「美術と平和」1995年度第1号)とのことである。
戦後間もなくの日本美術会の出発が、戦中の社会とその中での美術家の実態への深い反省の上に立って、過去からの決別―未来への希望を見据えつつのものであったのに対し、その5年後の平和美術展の出発は逆行する社会の暗雲を睨んでの悲壮な決起であったであろう。

 

しかし意外にも、第1回展目録の趣旨説明文には、悲壮感は無く、世界の平和運動と「平和への意志の表示」で一つに手を結ぶことの大切さが重ねて強調され、「日本美術史のなかに、深い意味を持つ1ページを加えるもの」との確信が記されている。

 

実行委員長などを引き受けられた中谷泰、西常雄、佐藤忠良、本郷新、吉井忠、森芳雄、高田博厚などの諸大家のほかにも、井上長三郎、麻生三郎、山口薫、難波田龍起、鶴岡政男、末松正樹、土門拳ら、更には朝倉文夫、平櫛田中、正宗得三郎などの老大家も参加してのこの運動は、日本美術会発足とともに、まさに美術史上の2大画期であった。その理念が引き継がれて60年を経、全国各地にも拡がり、活動は発展している。60周年記念展は数年ぶりの盛りあがりを得て、全体的に成功であったと言えようが、平和な生活が脅かされ、憲法改悪の動きが急を告げている今、この展覧会の意義と役割から見て、現状は決して満足すべきものではなく、もっと広範な美術家の結集を目指し、運営主体を強化しつつ、前進していかなければならないであろう。

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コメント: 1
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    Vania Serra (金曜日, 03 2月 2017 14:09)


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