「日本アンデパンダンテン」に参加していた在日朝鮮人美術家たち

私は在日朝鮮人の美術の研究をしています。第二次世界大戦後の日本に約60万人の朝鮮人が残ることとなりましたが、私はその中でも美術家として活躍した朝鮮人たちの足跡を追っています(年代の設定は1945年から1960年としています)。単に、彼ら/彼女らの美術作品の造形の特徴について語るのではなく、彼ら/彼女らがどのような経路で日本に渡り、どこで美術と出会い、どのようにして技術を習得したのか、日本でどのような人生を送ったのか、そしてどのような制作を行なったのかについてできる限り詳細に調べ、大戦終結直後の日本の様子を在日朝鮮人の美術という側面からみつめ直そうとしております。

そこで基準となる資料が、シンポジウムでもご紹介しましたように、1962年に発行された『在日朝鮮美術家画集』です。在日朝鮮人の美術作品や活動の内容は、この画集が発行されるまで、『美術運動』を始めとする日本人が編集していた機関誌や雑誌に紹介されていました。この『在日朝鮮美術家画集』は、在日朝鮮人の手になる始めての画集であり、在日朝鮮人だけの美術作品と活動内容が収録されている貴重な資料です。

 

 ある日、<美術運動を読む会>のメンバーの足立元さんが提供してくださった「日本アンデパンダン展目録」を精査していたところ、私が研究している在日朝鮮人美術家の名前が掲載されていることに気が付きました。1951年2月に開催された「第4回日本アンデパンダン展」から朝鮮人美術家の名前が散見されるのですが、回を追うごとにその人数が増え、とても興味深いことに1961年2月に開催された「第14回日本アンデパンダン展」の在日朝鮮人美術家の出品作品と、『在日朝鮮美術家画集』に収録されている作品が、多数一致していました。少し題が違っている作品もあるのですが、時間を置いて手直しをしたり作品の題を考え直したりすることはどの美術家でもありえることだという点を考慮すると、一致する作品は少なくとも9点はあります。

 

『在日朝鮮美術家画集』には箕田源二郎氏の文章が掲載されているのですが、「第十四回日本アンデパンダン展に於ける朝鮮人美術家の集団出品は強い印象を私たちに与えた」という文から始まっています。当時在日朝鮮人美術家は共通のテーマで制作をし、集団的に行動していたのですが、その作品を「第14回日本アンデパンダン展」に大挙出品していました。この回の出品目録と『在日朝鮮美術家画集』を照らし合わせると当時の展示の様子を想像することができるという点をシンポジウムでご報告いたしました。

(作品については、写真をご参考ください。)

 

それでは、この「第14回日本アンデパンダン展」に出品された在日朝鮮人美術家の作品はどのように鑑賞者に受け入れられていたのでしょうか。在日本朝鮮文学芸術家同盟美術部機関紙『朝鮮美術No.7』に掲載されている松谷彊氏の文には次のように書かれてあります。

 

「日本美術会は、その第14回日本アンデパンダン展開催にあたって、中心的な制作課題として“1960年のたたかい”という旗印をかかげた」。また、この展覧会に出品した在日朝鮮人美術家白玲も、「(日本美術会の)『1960年の闘いによる、課題制作』がこれらの現実を踏まえて意欲的に推進されたことは本年度の収穫であった」と言及しています。

 

政治から切り離された美術こそ真の美術であると考えられ、長い間あまり触れられることはなかったですが、当時、政治的で社会的な共通テーマが課題として提示され、そのもとで集団的に制作をしようとしていたのは、在日朝鮮人だけでなく、日本人美術家もこれを

試みており、このような戦後日本美術の動向についてさらに研究が進むべきだと私は思います。松谷氏は以下のように続けています。

 

「革命的観点に立ったリアリズム芸術までもを、“描写絵画”“再現絵画”という奇妙な観念で蔑視する風潮がきわめてつよ」いが、「在日朝鮮人美術家たちは(中略)、ものおじしない態度」で取り組んでおり、「共通した態度が、多くの人にふかい感銘を与えたのだろうとおもう」と述べています。「民族」という共通テーマで制作し、集団的に発表することに没頭していた在日朝鮮人美術家たちと、このような行為に多少違和感を抱いていた当時の日本人美術家たち。

 

戦時期/植民地期の経験から、表現や制作テーマを何者かに統率されることに対する考え方が、美術家の表現と活動と、批評に大きな影響を与えていたのではないかと私は考えていますが、この点はこれからの研究課題です。今後とも、東北アジア美術研究の一環としての在日朝鮮人美術の研究をご指導いただければ、幸いに思います。

 

白凛(ペク・ルム)東京大学大学院・在日朝鮮人美術史研究 

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コメント: 2
  • #1

    (月曜日, 27 6月 2016 15:37)

    はじめまして、在日3世の姜と申します。
    金昌徳さんの絵が家にあります。
    60年前、父が、法政大学の尹学準教授のご紹介で、50万円で購入してもので、当時としてはかなり高額で購入したようです。
    箱根の芦ノ湖を描いた油絵です。
    事情があり、買い取って頂ける方を探しております。
    突然、不躾な事を申し上げて申し訳ございませんが、何方かお心当たりがございましたらご紹介頂けませんでしょうか。



  • #2

    編集部より (火曜日, 28 6月 2016 12:25)

    姜さま
    筆者のペク・ルン様にメッセージでお知らせしました。記事を読んでいただいたことを喜んでおられる旨と連絡先を教えていただければとの事でした。こちらは掲示板になりますのでホームページ下の「お問合せ」の欄より連絡先をいただけますよう、よろしくお願いいたします。