時間と場所を超えるということ

過去10年間、アメリカ、メキシコ、そしてここ数年は日本とドイツでも芸術家としての活動を展開している。その中で見えてくることは, コンテクスト(場所)と時により、アートというものは様々な意味を持ち始める。人間はそれぞれの時間と場所と切り離すことができない。しかし、その時間と場所の接点にて、アートにはなにか新しい次元を切り開く可能性を持っていると信じている。

5年前の2009年に“ヒロシマ・ナガサキダウンロード”(73分)という映画を制作した。。映画ではヒロシマ,ナガサキで原爆を経験した後に、北米の国々へ移住した人を訪ねながらインタビューし、その後にどのように“記憶”というものを自分の中にダウンロードするかというものだ。つい70年前までは“敵国”だった国に住む被爆者の記憶を時間と場所を超えながら追いかけるという試みだった。

 

その後2010年から12年にかけてアルファ崩壊プロジェクトを決行。メキシコ市から北京まで、世界の8都市でアルファ崩壊のインスタレーションを行い、そのプロセスと化学反応をひとつの本にまとめた(現代書“アルファ崩壊:現代アートはどのように原爆の記憶を表現しえるか”)。福島第一原発事故直後の東京、戦争の傷跡と共存する沖縄、尖閣問題で揺れる北京、。。。世界の様々な場所と人と関わり、その場の振動と共に揺れながら、自分の記憶を刻み、時間を超える試みを実行した。アルファ崩壊という核分裂反応を自分の中で追体験し、どのようにしてこのバイオレンスな記憶が時間と場所を超えて繋がっているのかということを探求する旅になった。

 

その後2013年からベータ崩壊プロジェクトを始める。一作目はメキシコオアハカ州でサポテカ先住民の織り物職人の町テオティットラン・デル・バエのレジデンシーから始まった。織り物の下糸に当たる糸を使い、古くから伝わる技術を使いながら作品を制作。その2作目では同じ素材を使い、丸木美術館にてインスタレーションを展示した。丸木夫妻が描いた原爆の図やホロコーストの図に囲まれる中、それらと同じ場所で、丸木夫妻が描いた時間を身体に感じながら展示を設置した。3作目はドイツ・デュッセルドルフで行う。帰国子女である自分は、デュッセルド

ルフに1985年から90年までの幼少期を過ごしたことがある。その同じ場所で、28年前のチェルノブイリ原発事故当時の記憶が蘇ってくる中で、ベータ崩壊3作目は出来上がった

 

そして先日ここメキシコティファナにて、ベータ崩壊#4を完成させた。ここメキシコ南部のゲレロ州では43人の生徒が地元政府、警察、麻薬組織が関わった犯罪により行方不明になり、そ

れと同時に何十体もの埋められた焼身死体が発見される。それをみた瞬間、原爆の後に長崎市内で上流からながれてくる何百体もの死体を陸にあげて松ヤニで焼いている16才の少年のイメージが浮かび上がってきた。ブラジルであった被爆者芦原学さんの話だった。自分の中で時間と場所とが交差してきている。実際にティファナからは飛行機で3時間程かかるので物理的には遠い場所ではあるのだが、メキシコ全国で政府に対するデモ行進が起こっている。なにか人間性の崩壊をぎりぎりにて止めようとする熱い振動を感じながら、ベータ崩壊#4は完成した。

 

時間と場所を超えるということは、時間と場所を繋げるということなのかもしれない。1945年の広島と長崎、2011年の3.11直後の東京、1986年の放射能を含んだ雲の下にあるドイツ・デュッセルドルフ。いやそれだけではない。2006年にブラジルで聞いた被爆者の人の話と、2014年に目の前で起こるメキシコでの惨状。そうこの記憶は過去のものではない。我々の目の前で現在進行形でおこっていることなのだ。未だに福島第一原発からは放射能は漏れ続け、広島長崎の原爆を生き延びた人たちの中では一人一人の供養が続き、ここメキシコではぷくぷくに膨れた焼死体が毎日のように発見され続ける、行方不明の息子を抱える家族は悲しみに包まれる。

 

様々な場所を超えて活動している芸術家の自分に課かされているのはそれぞれの時間と時間、そして場所と場所を繋げるのが仕事なのかもしれない。それは同時にそれぞれの時間と場所にとことん執着し、そこの当事者性の奥へ奥へと突き進んでいくという行為でもある。そこにアートが浮かびあがらせることができるのは太古から続くあるひとつの振動のようなものなのではないだろうか?

 

時間と場所を超えることは今のところ物理的にはできない。しかし時間と場所を超えようとする試みによってあぶり出される人間にとってのある共通項が、この記憶の海を切り開いていくための唯一の羅針盤だということは確かだ。

 

竹田信平

 

アーティスト/映像作家

メキシコ・ティファナを拠点に活動。記憶をテーマとして、写真、インスタレーション、野外アート、ドキュメンタリー映画等を制作。南北アメリカに在住する被爆者を2005年より追い、ドキュメンタリー映画〝ヒロシマナガサキダウンロード〟(2010)、国連軍縮局との共同制作多言語ウェブサイト www.hiroshima-nagasaki.com (2012) 、 インスタレーション〝アルファ崩壊〟(2010-2013)、ベータ崩壊(2013~)等を発表。その傍ら米サンディエゴのアート・アソシエーション 、THE AJA PROJECTを2001年に設立、現在そのアートディレクターも務め、ノイズパンクフォーマンス集団ゴーストマグネットローチモテルを2006年以来率いる。 公式ウェブサイト:www.shinpeitakeda.info