シンポジウム「危機と美術」を終えて

はじめに

事前のビラ・入場券を7~8月にかけての民美夏季実技講習会、以降の各種会議、直前の新聞報道等で事前申込80名に達し、当日新たに14名加わり、最終討論に84名が残る盛会でした。準備から4ヵ月、始動から3ヵ月、無料ではなく会員も入場料1000円を徴収する行事。アンデパンダン展以外に多数の参加者と豊かに創造的な内容を共有できたのは、シンポジウムと会への期待であり、会の成果でした。


薮内 好 やぶうちたかし  企画総合プランナー


2. 経過報告  ここでは割愛します


3. 当日の運営と内容(その成果と課題)


・9時集合、会場づくりや諸準備は手際よく、アトリエでの懇親会準備を昼休みに実行。

10時受付開始辺りから参加者が続々と集まり、金銭の扱いや予約の確認等の受付業務が混乱なく進む。講師の到着は早く、映像・パソコン準備順調。(時間厳守!は成功の土台)


・開会予定5分前に集合状態と判断し会は始まる。①鯨井代表挨拶は極めて簡潔。その分②経過報告(実行委員会.籔内)が少し長め。③日程案内・協力(総合司会・川原.山口)がなぜか無くなる?集会参加者への運営協力要請は基本では。結局15分早く上野講演は始まる。


・結果的に時間的余裕が生まれ、丁寧に準備された豊かな内容が話し切れたようです。

しかし65分は少し長いか。コーディネーター・木村さんの対話と司会は的確、当日全体進行と運営の基調を整える。会場からの短い質問、講師に問い掛け講演内容を深めながら全体へ返すという討論の流れと、あるべきシンポジウムの運営の在り様を示す。講演は、美学的歴史的な、基礎的事柄から語られ、海外ビエンナーレ展も含め、現代の内容と形式を映像で示した後、ケルト

系を中心としたヨーロッパ中世美術表現の可能性と、人間表現の真の自由とは何かを問います。「暗黒の中世美術」とは、地中海文化中心の思想ではなかったかと。講師の熱意は少し早口で

も、その提案や準備の質の高さに反映し深い感銘を与えると共に、やや難解な点も。しかし映像や構成に力がありました。


・昼食休憩等も着実な進行で、午後の着席も早く、北野講演は5分早く始まる。

 スライドから初のパソコン操作で少し戸惑う面もあるが、近年の国立新美術館出品作を、表現の多様性と多元性、具象と抽象のハイブリッドの指摘等、3.11以降の各作家の変化や動揺を深い切口で批評を重ねます。厳選されアンデパンダン展作品の全体像を、次の機会に、ぜひより詳しく聞きたいものです。

 講演時間内では語り切れない面が、コーディネーター・宮下さんの親切な質問により内容は深まり、会場からの率直で執拗な質問で課題が鮮明になる討論がシンポジウムの神髄。  

自ら望む答えを探り、自らと違う質の答えを理解し認める大切さと広さ等です。北野氏の言う、異質なものの共同。文化的な領域では答えはひとり一人違うから魅力があり、芸術・美術の解答が同じとは、恐ろしいことでしょう。


・10分休憩後、予定時

間通り荒木講演は、音楽と共に始まる。

 信時の「海行かば」に藤田の「アッツ島玉砕」そしてサイパン、その嘘と真。芸術が有する絶大な政治的効用から、危機と美術の多様な様相が映像と刺激的な表現で個性的に語られる。弱

肉強食のキャピタリズム(資本主義)、その現代版・新自由主義。権力に操作される情報化社会で、真実を見抜くためのブレヒト的5つの視点を提示します。「天皇とマッカーサー」「ハゲワシと少女」「アブグレイブ刑務所」「ダミアン神父」等に込められた危機の中身とは何かを鋭く問いかけるが、膨大な資料は語り切れない深遠な内容です。

 そこをコーディネーター・稲井田さんが誘導してピアノ独奏まで演じ、新自由主義の寵児.村上隆「起業論」を披露、具体的理解が広がる。今回の各創作者によるコーディネーター方式の優れた形式と内容を確認します。準備等は必要ですが、優れて適任でした。


4. まとめ (今後の反省と次への課題)

・期待して45分準備した全体討論、各3回の30分討論ほど深まらなかったのは、なぜか。

このような全体討論がいかに難しいかを証明しています。特にまとめる方が大変です。

 討論は自由。しかし分散的自由では議論が深まりません。

テーマが並列的だと論点が不明瞭になり噛み合いません。発言は自由。しかし共有すべきシンポジウムのテーマに関わって発言しないと、ただの独演になり、みんなの時間が浪費され、シン

ポジウムは成り立ちません。

 テーマを共有し深める発言が求められます。優れた発言は参加者の心を動かし、その言葉で心のキャッチボールが進みます。議論の輪を広げ、真理に近づく力を励ますでしょう。的確な

質問や問いかけこそ、対話が弾み進展させる民主的原動力ではないでしょうか。


・シンポジウムの準備段階、遅れを急ぐ余り、係が先行し会議を後手にするという不十分さが指摘されました。今後、これらの経験を生かした民主的な運営で、開かれた文化運動集団にふさわしい、民主的な実態と文化的質を育み、会の更なる成長成熟が期待されます。



 (編集・菱千代子)