憲法の理想と現実 主体制は誰が持つのか?

※美術運動141号(2014年3月発刊)


日本の民主主義は外国のように革命で勝ち取ったものではなく敗戦後、外側からもたらされたものです。自民党の憲法改正案とは60年以上たちその理想と現実の間にある矛盾、そこに主体性はあるのかという問いであると思います。外の影響を受けるがゆえに違憲化されている軍隊を保持し、沖縄のように憲法に規定される国民の権利の枠外に置かれる地域が存在しています。現実に憲法を合わせることが「日本を、取り戻す。」というイメージに強く結び付けられており、改憲か護憲か争点は国防と9条の問題に集中してしまいがちです。憲法が高尚なものであるというイメージも重なって、国民の権利を守る為のツールである事があまり理解されていません。国民の権利を守る為のツールという実感が憲法のリアリティなのだと思います。

2013年アンデパンダン展に出品した「行動するアート」の中には官邸前の運動やネットで知り合いになった人々が表現の自由・言論の自由、過剰な知的財産権の保護が与える影響を中心に、街中で周知活動する様子をインスタレーションにドキュメンタリー構成したものです。ベースには3.11と脱原問題があり、保持責任の努力をおこたったがゆえに今の危機的状態が現象化された事に対する反省があります。私たちの危機意識というのはネットで共有され拡散されています。ネットというツールが私たちの世代にとっての情報源であり武器でもあります。憲法12条に「自由及び権利は国民のふんだんの努力によって保持しなければならない」とあります。本物の危機意識は人を動かし、結果的に憲法の理念に近い形の行動に至るのだと思います。保持責任を果たす必要性にかられた人たちはわずかながらも増えてきていると思います。そしてネットが規制されるような状態であれば自分たちのツールは自分達の手で守らなければなりません。

 

海外では表現規制、知的財産権の過剰な保護などは反対運動が盛んです。海外で猛反発にあった法案が日本ではあっさり通過してしまうという事態が起こっています。これは海外と日本の民主主義の理解の大きな差なのだと思います。そしてネット世代は民主主義の理解が浅く、民主主義を理解する人は年配者が多く、ネットを見ないという事でもあると思います。「ACTA」というのはアメリカのインターネット規制・監視包囲網の「SOPA」「PIPA」などの流れを汲む法案であり、国が監視・規制するのではなく、その権利を多国籍企業が果たす法案で、国際合意のプロセスが秘密にされ、世界的に反対運動が起こり棚上げされた状態です。「TPP」とセットで親告罪化の可能性があります。セットを提案しているのは残念なことに日本です。改憲案での憲法21条第二項の「公益及び公の秩序」が付け加えられることによって、国の判断が無条件に正しいものとなり公益に反すると認定された活動はデモ、集会の自由が制限され、秘密保護法とセットにしてしまえば操作・逮捕の対象となりうるという部分を想起させます。TPP自体も秘密交渉であり国際合意のプロセスが秘密です。民主的であるかどうかの1点で棚上げすべきものです。201311月にウィキリークスがリークした情報では、TPPの知的財産権に関する章には、医療・薬事法、出版、インターネット・サービス、市民の自由、生物学的特許などが対象とされており、国境を越えた法律の施行体制は結果的に表現・言論・人権を規制し現行憲法の改正を迫るものです。私たちの権利は多方面から脅かされようとしています。主体制は誰が持つのか?その選択が迫られています。そして未来に民主主義を残そうと思うならば声を上げなければなりません。

新谷 香織

憲法21条否定法案 国境を越えた法律の施行体制は結果的に表現・言論・人権を規制し現行憲法の改正を迫る
憲法21条否定法案 国境を越えた法律の施行体制は結果的に表現・言論・人権を規制し現行憲法の改正を迫る