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画廊ほど素敵な商売は無い?!

日本美術会会員菱 千代子

ギャラリー木蓮
ギャラリー木蓮

 29年7月、賽はなげられた。それは1年近い物件探しから始まったが、新聞を開くごとにまず見るのは不動産広告だった。いまだにその習慣が抜けずに笑ってしまう。見学した物件は50軒以上になるかと思う。最初はふつうの住宅ばかり探して、広さを求め飯能方面まで探訪したが、やはり今までの人間関係を反古にするのはもったいないので、入間市内に舞い戻った。幸運にも市内の中心部の商店街に中古の元商店がみつかった。外見は築30年という、うすぼけたしろものであったが、構造は鉄筋であり、内装を変えれば結構使えそう、と判定した。元の持ち主が、米店であったため、倉庫部分が多く、リフォームに最適との建築士のお勧めもあった。当初水道管がさび付いていてもっとも大事な生命線である水道がまともに出ず、かなりのストレスを抱えてしまった。道路まで掘り返す大工事と、ステンレス管の交換でなんとか普通の生活ができるようになった。中古住宅を購入する人はこの点が要注意である。

 約3か月のリフォーム工事により内部は見違えるように甦った。ギャラリー部分は11畳ほどのA室と奥の14畳程のB室から構成され、さらに奥には狭いながらも事務所兼常設展示のできるミニギャラリーもついている。また画廊で最も重視される照明も壁面にそってダクトを通し、2種類の照明を使い分けできるようにした。壁面もワイヤーとフックの両方を併用できるようになっている。天井は3メートル近くあるので、すっきりした印象である。

 外壁塗装を見送ったので、あまり新しい印象はないのだが、ほとんどの訪問者が一歩入ると、にこやかに讃嘆の言葉を発してくれる。「すごい!」「素敵!」「いいね!」・・・、もちろん無言の人も多いが、みなこの地に純粋な画廊ができたことに対し、大いに喜んでいるらしいことは見てとれた。初日は50人ほどの訪問者があり、たくさんのお祝いをいただいた。入間ケーブルテレビの取材もあり、市長からも挨拶をいただいた。

 問題は展示物である。7月、8月は主に私のコレクションが中心であったため、抽象画に偏って、近所のおばさんなどは「ちんぷんかんぷん!」などとのたまうので、これはやりがいがあると、内心ほくそえんだりしたが、少し心配でもある。そこで9月からはわかりやすい具象も取り入れ、地元の画家に多く参加していただくことにした。すると、てきめん参観者が2倍、3倍と多くなり、お茶出しも間に合わないほどになってきた。またこの場所をたんなる絵画鑑賞の場所だけではなく、人との出会いの場、情報交換の場と捉える人も多くなってきた。まだこちらの狙いである、芸術談義をする人は少ないので、図書等をそろえ、少しずつきっかけを提供していきたいものである。また絵を描く人ばかりでなく、買ってくれる人、鑑賞者の集まる場、時には政治談議も飛び出すような自由な空間にもなるよう期待している。一月には私の未公開コレクション展に引っ掛けてスパニッシュギターのミニコンサートも企画している。音楽ファンもきてくれればさらに新しい美術ファンが増えるのではないだろうか。

 12月末に突如企画した「年末ミニアートバザール」は参加者集めで苦労したが、期限までに予定の15名が集まりなんとか実施することができた。内容もすこぶる多彩である。水彩、アクリル、日本画等各種絵画はもちろん、山の間伐材を利用した木彫作品から、ビールの缶や壊れた機械や時計を利用したジャンクアートのたぐい、実用的な編み物や袋物、はたまた超エレガントなビーズのアクセサリーやつまみ細工まであり、参加者も見る人もワクワクしながら楽しめたようである。また知らない参加者どうしが、雑談しながら、仲良くなっていく姿は微笑ましい光景でもあった。

 案内状の印刷ができあがったのは1週間前であり、年末の超多忙の時期でもあり、お客が激減してしまった。しかし参加者自身の協力ぶりには頭が下がった。この画廊では立体作品を扱ったことはほとんどなかったので、まず展示用の机がそろわなかった。それをカヴァーするために数人の人が出動し、リサイクルショップや自宅を往復し展示施設をととのえて下さった。呑気な画廊オーナーにはあきれたことだろう。中には展示してあった古い石膏像まできれいに塗装してくれる人がいて感激した。みんながこの会場をよく見せようと、知恵を出し合ってくれたのだった。売上の方はやはりぱっとせず、2千円程度の小物が売れ筋だったようだ。特に絵の売れ行きが悪いのが残念であった。こんなわけで画廊の収入はたいしたものではなかったが、画廊を出入りする層が拡大したのがなによりの収穫であろう。またこの中で増えたサポーターとの交流も大変楽しい経験となった。

 こういった周辺都市にある画廊の役割は都心にある画廊とは自ずから異なり、どちらかといえば絵の売買の場というより、地域のコミュニケーションの場となっている。また私自身もそれを期待しているが、年齢層が偏っているのが少々不満である。30代以下の人がほとんどみあたらない。 

経営している私が年寄りだからかと思ってみたが、若い人の美術離れ現象も大きい。これに対向するにはやはり工夫が必要だ。魅力的な企画と宣伝、そしてホームページ。SNSの活用が不可欠である。引っ越しのごたごたでこれらのことがすべて出遅れてしまった。

とにかく展覧会ごとに100人~300人程度の人に対応するので、かなりのエネルギーと人間力が必要だ。だが現実はきびしい。体力、記憶力、適応力が年々衰え、認知症の影まで忍び寄ってきた今日この頃、後継体制をどうするかが大きな課題となっている。

 だがこの不思議な経済状況の中、画廊経営が成り立つのかは大いに疑問であろう。世間では株を中心にオリンピック景気も真っ盛りと言われるが、私の周囲ではまったくというほど、その実感はみられない。みなスマホを肌身離さず持ち歩くが、通信料ばかり増えて真の充実感はあるのだろうか。パソコンや携帯電話が犯罪に利用されるようになって久しいが、さらにそれが国際的に拡大し、億単位の詐欺商法につながる場合もあるので不気味である。SNSを通じて蓄積される膨大な情報(ビッグデータ)は国家や、大資本にねらわれ、使いようによっては社会的凶器にもなる恐れもあるようだ。そのような中なんといっても顔と顔を突き合わせての対話は楽しい。また自分の目で生の作品を確かめられる点でも貴重な場である。煎茶程度は前から出していたが、最近コーヒーメーカーの機械を入れたら途端にお客が喫茶店と間違えて、色々と注文をしてくる。それに対応する人員、施設等が不足しているのが残念である。原則画廊ではお金は取れない。

 また、駐車場の問題も大きい。裏側に9台分の商店街の駐車場があるのだが、所有者は6軒であるため、平等に割るとⅠ,5台にしかならず、他の土地に自分の分を借りることにした。これらの経費やお客さんの利便性を考えると、駅に近い画廊はうらやましいかぎりである。

 画廊の経費の中で最も大きいのが、広告宣伝費・通信費である。おもに案内状の印刷代と発送費であるが昨年、郵送代が値上がりしたのが痛手である。各展覧会ごとに200枚程度発送するので、最近は3回分ぐらいを封書でおくるようにしている。

 7月から12月までで、総訪問者は1000人をゆうに超えているが、毎週のようにやってくる常連さんは100人位であろうか。そのうちの4分の1が積極的サポーターで、こちらが困っていると、何かと手伝ってくれるし、さまざまなアドバイスをしてくれる。これらの人々があるからこその画廊経営といってよい。

 しかし、今のところ入るお金より出るお金の方が若干多いので何らかの改革を図らねばならない。「その年で、そんな苦労までしてよくやるね。」というのが家族や親しい友人達の率直な感想である。

 その言葉に対する私の反論を列挙してみよう。①若いころから親しんだ美術の世界を死ぬまで探索したい。 ②美術教師の免許や学芸員の資格を生かしたい。 ③200点余りあるコレクションを公開し、美術文化の交流の場とする。④障がい者の作品を系統的に集め、美術の概念を拡げる。将来の大きな夢としては日美を中心にした美術館の建設につなげたい⑤頭や体を使い、後期高齢者時代を地域の人たちと楽しく生き延びる。

 資金の無いのが心細いが、クラウドファンディング等の方法も研究し、持続的・発展的にやっていきたいものである。そんなことについても皆さんからお知恵を拝借できれば幸いです。


ギャラリー木蓮

心と心をつなぐ画廊 あらゆるジャンルに対応

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