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原子力サブカルチャー9

村田訓吉(むらたくによし)

 先ずサブカルチャーでなく現実に素晴らしい事が起きました。核兵器禁止条約が2020 年10 月24 日にホンジュラスが50 番目の批准を行って戴いた事で2021 年1 月22 日に発効されることが決まった事です。心から感謝し祈りを捧げます。

 この美術運動が発行される時期にはもう核兵器禁止条約が発効され、実際に動き始めていることでしょう。少しでも早く、唯一原子力爆弾を兵器として落とされた日本が核兵器禁止条約を批准することを願っています。

 コロナの時期の数少ない嬉しいニュースです。原子力サブカルチャーを書き続けるにあたり最初からその念をもって書いてきました。発効されても実際に世界から核兵器が無くなるまでまだ長い時間が必要でしょう。さらに原子力利用に関しても現在の方法だけでなく、核融合や新しい形で開発されていくこともあり、監視の目をさらに光らせなければいけません。そういう意味で原子力サブカルチャーの役割もさらに必要になることでしょう。

 ゴジラに始まった原子力サブカルチャーですが、日本でアニメ化されたゴジラの三部作では放射能によりゴジラが生まれたのではなく、ゴジラは最初から地球に住んでいて、警告と放射能を地上からなくそうとして現れた神のような存在として書かれてあり、人類は長い時間を通してゴジラに戦いを挑み続けるが、最後に宇宙からのキングギドラの地球への襲来にゴジラが命がけで阻止して地球を守り、その時人類はゴジラを神として崇めるような形に完全にコンセプトが変えられています。アメリカで作られた2 本のゴジラ映画もまた同じ様にコンセプトが書き換えられています。さすが日米関係はこういうところでも傀儡政権的なつながりを見せるのだなと苦虫をつぶす思いです。

 ただ見方を変えれば原子力を破壊するのは原子力政策を否定することで、どんなに生態系が変わっても地球を守り続けようという姿勢は、環境問題に取り組む多くの人達にも考えておいてもらわなければいけない重要なことの一つでもあるのかもしれません。これからもゴジラは両国だけでなく、エンターテインメントの作品として作られ続ける事でしょう。できれば放射能の危険性や環境保全の姿勢を、また戦争による闇と支配と人権を、作品の中で書き続けて頂ければ幸いです。

 スウェーデンのアニアーラという映画が2019 年に作られて、現在日本でもDVD やブルーレイが売られていてレンタルもされています。アニアーラは原作はスウェーデンのノーベル文学賞受賞作家ハリー・マーティンソンの1956年に描かれた代表作で、その後1974年にノーベル賞を取ったのも、この作品が大きな影響があったと言われている作品です。放射能で汚染された地球から移住するありがちな設定に見られますが、たぶんこの作品が宇宙移住のものや放射能で地球が滅ぶ設定のSF作品の最初のものであろうと考えられます。日本のゴジラが公開された2年後に書かれたものであることも考えると、ハリー・マーティンソンは初代ゴジラや映画ひろしま(1953 年に作られた原爆に見舞われた広島を描いた伝説的作品) を見ていたかもしれません。人間社会と複雑に絡み合った死生観と環境問題を扱ったこの作品は、抒情詩という形で発表されオペラにもなり、2019 年には映画化され本格的SF ファンには素晴らしい評価を得られたのですが、最後にはニルバーニャ「涅槃」に帰るという終わり方と厭世的な感覚が見る者に対して評価がかなり分かれます。原作はその優れた内容によって現在でも日本ではスウェーデン演劇の第一人者の女優毛利まこにより朗読劇が駐日スウェーデン大使館や各地で行われたり、これからもいろいろな形で原子力サブカルチャーに影響を与えていく作品です。

 最後になりましたが、核爆弾から原子力の平和利用、この偽りに満ちた幻を核兵器禁止条約は実はインクルージョンされています。何故ならば原子力発電自体が核兵器材料製造工場だからです。核兵器禁止条約から原子力禁止条約につながることを祈り、間違っても私たちの子孫がアニアーラの搭乗員にならないことを願います。


日本美術会会員 村田訓吉(むらたくによし)
1974年から何度か呼び方は変わりましたが、愛と平和と地球と子ども達の再生可能な未来と言うコンセプチュアルアート製作継続中。NUC IS OVER GO GO GO。