· 

「美術運動」オンライン座談会

上野一郎(美学・美術評論)×冨田憲二(日本美術会代表)×木村勝明(機関誌部)

中央:復刻版のパンフレット(三人社) 右:第一回配本三巻
中央:復刻版のパンフレット(三人社) 右:第一回配本三巻

木村(司会)―コロナ禍の座談会です。オンライン座談会。上野さんは金沢から、冨田(葛飾)、私は横浜からの参加です。

 京都「三人社」による美術運動:復刻版第3巻の配本がありました。昨年からのコロナ禍の大変な時に出版され、契約に基づき送られてきましたので、それを宅急便で回して、一応見ていただきました。 感想はどうですか?

 

上野ー3巻あって、よく調べてもらっているな~と思います。

 

冨田―立派なものだと思います。今後必要な方が手元に置いてもらい、有効に使ってほしいです。当初、資料を出すのに懸念の声もありましたが、率直に言って、良かったな~と思います。貴重な財産になると思います。

 

木村―1巻目の創刊からしばらく経つとガリ版印刷もあって、びっくりしますね!1949年頃に「BBBB」という、本屋に並ぶ4Bという普及版も6冊あるのですが、これはとても売れたという実績もあったが、6冊で終わってしまう。いろいろ当時のことはわかりませんが、何かあったのでしょうね!

 

冨田―編集部大変だったろうね!

 

上野― 今回の3巻の頃は、私はまだ日本美術会に入ってないし、知らないのだが、大変な意気込みで作ってますね!

 

冨田―勿論僕も入ってない。

 

木村―上野さんは60年安保世代ですか、僕と冨田さんは70年安保世代。

 

上野―1948年8号の美術運動にはピカソ展開催のこと、藤田嗣治がニューヨークで展示会をして、アメリカ人に批判された事が出ている。

 

木村―どこだったか、ピカソのスターリン肖像画について、賛否両論があったとあります。美術文化協会(吉井忠・井上長三郎・丸木位里・赤松俊子・井出則雄・大塚睦・山下菊二・箕田源二郎・堀内規次・ 小山田二郎・富山妙子)が総会で全員、日本美術会参加を満場一致で決めた、とか。

 

上野―「美術におけるヒューマニズムの擁護」とか「平和と自由のために」とか「国民的美術の創造」とかが『美術運動』のタイトルの横にスローガンみたいにして何回か使われていて、当時の様子が感じられる。 当時理論部などまだなかったけれど、美術理論・評論の方も多く参加していた。林文雄・宮川寅雄・松谷彊・針生一郎・中原裕介・瀬木慎一など。

 

木村―当時、会の派遣として海外にもいろいろな方が行ってますね!当時は簡単に行けなかった。

 

冨田― そう、これは大きな経験だったと思う。

 

上野―安保の発言3人しているが、11ページの報告を研究部が書いていて、1961年60号に「創作の場と政治の場」という対談が、朝倉摂や井上長三郎・桂川寛など8人でやっている。当時の真正面なタイトルが時代を物語っていますね!

 

木村―年末に刊行予定の第二回配本三巻は60年代なのですが、それに別冊が付き、私らより世代の若い「美術運動を読む会」だった方々が、解題とか手分けして書かれるのですが、こういう形で会外の次世代に引き継がれてゆく歴史を大切に再創造していってもらいたいわけです。     

 

冨田―このコロナ禍の中、今後の運動の糸口をつかむこと、今後の展望と発端を、この変化の中でどう対応するかにかかっているのでは?

 

上野―まあ、次回の第二回配本(60年代)を待って、対話を広げていける機会を持ちましょう!


「美運」復刻版へのコメント― 北野 輝(美学・美術批評)

発熱でズーム会議に参加できませんでしたが、 数行ほどコメントを寄せて欲しいとのことで、手短に感想を書いてみます。

 

●今回「美術運動」の復刻版が刊行され「日の目」を見ることになったことは、「美術運動」誌(また日本美術会の運動)が戦後日本の美術史の一角に客観的な位置付けを与えられたことでもあり、大変喜ばしいことだと思います。また、刊行を実現した「『美術運動』を読む会」をはじめとする会外の有志の方々の多大な尽力に心から感謝します。

●今回の復刻版の刊行が会外の有志の方たちー私たちより若い世代の方々ーの手によってなされたことにある種の歴史的意義(新しい希望!)を感じます。同時にそれが日本美術会自身の内発的意思と力によってなされえなかったことに、わが身を振り返って、大きな問題も感じます。

●この復刻版は一つの歴史的ドキュメントですが、そこからもっとも多くのことを知り学ばなければならないのは、私たち自身でしょう。