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朝鮮画を分析した『平壌美術(ピョンヤン・アート),朝鮮画の正体』の紹介

白凛

朝鮮画を分析した韓国語書籍を日本語に翻訳しました。朝鮮画とは朝鮮民主主義人民共和国(以下「共和国」)で描かれる東洋画のことです。中国画、日本画、韓国画とどのように違うのか、その特徴は何なのか。同書は朝鮮画について、大韓民国(以下「韓国」)の人々を主な対象に書かれたものです(原著は2018年3月刊行。英語版は2019年12月刊行)。 序章で用語の使用や記述にあたっての注意書きを書いています。長きにわたる朝鮮半島の分断状況を考慮しながら、著者の文化に対する考え方をまとめています。最初の章で朝鮮画の70年の歩みを概観し、次の章で朝鮮画がどのような影響のものとで発生し発展したのかについて分析しています。「ネタバレ」になってしまうのですが、朝鮮画の発生と発展は、中国と旧ソ連のどちらの影響も受けていないと述べ、共和国の閉鎖的環境が発生と発展の波形だと書いています。次に1960年代の朝鮮画の特徴について述べています。ここでは特に李碩鎬(リ・ソクホ)の没骨技法を取り上げています。次の章では1970年代の主題画について説明しています。主題画とはテーマ性のある作品のことです。朝鮮画の主題画は戦争や革命がテーマになることが多いです。ここでは鄭永萬(チョン・ヨンマン)の「降仙の夕焼け」、趙正萬(チョウ・ジョンマン)の「武装獲得のために」などを分析しています。続いて1980年代の朝鮮画の多様性について書いています。共和国の絵画を「機械的」、「単一的」作品とみなす傾向がありますが、これは偏った見方であると主張しています。次に、前章で述べた朝鮮画の多様性が、集体画(共同制作)になると個々人の技量がどのように発揮されるのかを述べています。この章で展開される朝鮮画に見られる「笑顔」の分析から著者の観察眼を垣間見ることができます。次の章では、朝鮮画と韓国画を比較しています。韓国画の超精密技法と朝鮮画の没骨技法を比べ、「自由な表現」の意味について書いています。最後に社会主義リアリズムの再定義と朝鮮画研究の意義を書いています。付録ではリ・ジェヒョンの『雲峰集』を紹介しているほか、共和国でのインタビューや資料の調査過程を振り返っています。 本書の面白さは、共和国の「模作」や「著作権」、共和国と他の国の美術との比較の可能性/不可能性、水墨の特徴や群像の描き方、「宮廷女官チャングムの誓い」などの韓国ドラマとの関連性など、多様な側面から朝鮮画を分析している点です。 巻末の「著者後記」は原著にない書き下ろしで、光州ビエンナーレ(2018年)の朝鮮画展の準備期間から開幕当日までを振り返っています。私の「訳者あとがき」もお読みいただければ幸いです。


ペク・ルン:本書の日本語訳を担当。専門は在日朝鮮人美術史研究。博士(学術,東京大学)