美術館のネーミングライツの問題は 日本人の文化度を問われる問題である。

京都市美術館問題を考える会  代表 貴志カスケ

 京都市美術館ネーミングライツの問題は現在進行形の問題で、この刊が発行されたころにはどのような展開になっているかわからない状況です。しかし、事態がどのようになっていようとも撤回させるまで運動を持続させなければならない問題です。この間の経過をまず説明すると京都市は8月12日から9月20日まで京都市美術館のネーミングライツを公募。10月6日に京セラに決定しました。この間市会委員会や本会議で異論が噴出、美術関係者や市民から反対署名、請願、意見書などが提出されているにも関わらず、京都市はこれらの声を無視して強引に推し進めています。美術関係者は10月13日に京都市美術館問題を考える会を結成、京都市に撤回を求めて運動をすることを決めました。4日間で929筆の署名を集め10月19日に市会に請願書を提出しました。このことが大きな話題になり新聞各紙に掲載されました。10月26日に市会では市長に反省を求める決議が全会派賛成で議決されました。その後、市の巻き返しがあったのか、議会では共産党を除く各党が撤回を求める請願書に対して、「撤回を求めるものでない」として不採択のうごきがあり、請願書は陳情書に切り替えざるを得なくなりました。また、上村淳之氏ら市の文化功労者や日本芸術院会員ら12人が市長を激励し、ネーミングライツの首肯を明らかにしました。この間、「考える会」では京セラや稲盛氏にネーミングライツの辞退を要請する手紙を書いたり、ブログを作成したりしてネットなどを通じて世界中の人に訴えています。

 京都市美術館のネーミングライツは50億円で50年間京都市美術館の“愛称”を京セラ株式会社に売り渡すもので、それだけでなく京セラの宣伝ブースや施設を優先的に使える特権を与えるものです。では何が問題なのでしょうか。

 

 

1. まず名前を売ること自体の問題。

 違和感があるのはもちろん、文化都市京都の文化度の低さを露呈しているようである。「京都市京セラ美術館は京都市美術館です」と説明しなければならない時点で三流の文化国家であることを世界に宣伝することになる。

 

2. 手続き問題。

 名称を売るわけでなく“愛称”を売るので議会で承認をとる必要がなく市長独断で決めたこと。“愛称”というのは行政マンが考え出した悪知恵で、世間的には名称が変わったと同じものなのに“愛称”という言葉を巧みに使って市民や議会をごまかしている問題。50年先のことまで任期4年の現市長が決められるのかという法律的な疑問もある。また、あるギャラリーが22名の専門家の意見を集めて提出したが市は全く耳を貸さない態度であった。

 

3. 過去の寄贈者や寄付者に対しての冒涜である。

 美術館には3200点の所蔵品があり、その8割が寄贈品です。このように京都市美術館の名声は多くの人の手によって築き上げられてきました。その名前を市長が独断で売却するとは言語道断です。市は名前を売却してから寄贈者らに挨拶にいくといっている。寄贈者が文句を言えない状況を作り出してから挨拶に行くのは本末転倒である。これらの美術品が他の美術館に貸し出されるごとに京セラの宣伝道具となる。作品の所蔵欄に「京都市京セラ美術館蔵」、あるいは「京都市美術館(京都市京セラ美術館)蔵」と明記されるのである。

 

4. 企業の美術館の私物化にならないか。

 ネーミングライツの他の特典に京セラの宣伝ブースを設置することや施設の優先利用権が与えられる。宣伝ブースを設置すれば京セラの関係者が美術館に常駐することになり、人的交流が生まれる。京セラと美術館とのパイプが年月を積み重ねるごとに太くなることは明らかで、これは、美術館の専有化あるいは私物化になりかねない。このことは作家にとってスポンサータブーが重くのしかかってくることになる。

 

5. 50年間、他の企業からの寄付や寄贈が得られなくなる。

 

 京セラ美術館と命名された美術館に他の企業は寄付や寄贈をするであろうか、また、個人の寄贈も危ぶまれる事態が生まれるのではないか。寄付や寄贈が他府県の美術館や近代美術館に行ってしまう事態が生まれるであろう。50年の歳月を考えると一年につき一億円の採算そのものが疑問に思えてくる。楽天などはバルセロナのユニホームに「RAKUTEN」と書くだけで一年間に70億円も支払いをする。

 

6. 経費高騰の時期に計画を進める必要性があるのかという問題

 建設費が二回の入札で不調に終わり、設計を見なおさなければならない事態になっている。東京オリンピックのために建設資材や人件費が高騰する時期に合わせて建設する必要があるのでしょうか?もちろん東京オリンピックにやってくる海外の富裕層に京都にこんなにいい美術館があるのですよとお披露目したい気持が働いているのだと思うが、京都市京セラ美術館となってしまったら逆効果になるのは確実である。建設費が高騰する中で予算が圧迫されて整備計画を進めるよりも、この際じっくり計画を見直し、建設資材や人件費が高騰する時期を避け身丈に合った整備計画をたてて進めていく方がはるかに市民の負担を少なくしまた、代替え施設の手当てをして、美術館の展示事業も継続できる環境を整えて整備事業に取り掛かるほうが美術家や美術愛好家のためになる。

 

7. 京都市が性急に美術館整備計画を推し進めようとしているのは、この計画が京都市MICE計画(世界のVIPな人たちを会議やイベント、研修などで呼び込もうとする計画)の一環であるからです。MICE計画は2020年オリンピックまでに完成させるという計画です。美術館のある岡崎地域はマイス機能の強化を進める地域です。つまり、美術館整備計画は行政の都合で進めているわけです。市民や芸術家のために美術館整備計画が進められているというわけではありません。故に、3年間も工事で京都市の美術館の展示事業がなくなっても仕方がないと考えているわけです。美術館行政の重要性を鑑みれば代替え施設を作るのは当たり前のことです。また、現代美術館を作るというのも降ってわいたような話で充分な検討をなされているのか疑問です。現在の美術館使用規定では水は使用禁止、壁や床に作品となるテープは貼れない。釘は打ってはダメ。このような使用規定のもとで展示できる現代アートは限られてしまうし、それが現代美術館となると作家の発想もその使用規定に縛られてしまうという現代アート的でない状況が生まれます。このような現代美術館建設にもおおいなる疑問が残ります。その上、美術館整備が終了した後美術館の値上げが待っているのではないか、関係者は非常に心配しています。ロームシアター(京都会館)も改装後値上げをされて関係者が使いにくくなったとこぼしています。二の舞を踏むのは目に見えています。

 

8. 賑わいを求め経済効果をだけを考えている行政が美術館や平安神宮のある岡崎地域の現在の落ち着いた趣のある京都らしさを損なおうとしています。地域の方々もそのことに反対し、京都の文化をしっかり見据えて市民のためになる文化行政を行うことを要求して立ち上がっています。それら地域住民とともに私達美術家も運動を行っています。そしてこのネーミングライツの問題は単に京都市だけの問題にとどまらず、日本の問題でもあります。京都で許してしまうとすぐ全国に広まってしまうのではないかと危機意識を持っています。このことを撤回させるか否かは日本の文化度が問われています。皆さんのご協力やご支援を訴えます。

 

9. 入稿間際になって京都市と京セラ(株)がネーミングライツの契約を交わしてしまいました。2017年2月1日のことです。翌日に抗議文を京都市に渡し、市役所前でリレートークをして京都市と京セラに対して抗議の演説を行いました。この問題は契約がされたからと言って終わるものではありません。今はWEB署名(https://goo.gl/L5G5y8)も始まっています。今後は他の民主団体にも呼び掛けて日本の文化の問題として取り扱われるように運動を広げていく考えです。

 

京都市美術館問題を考える会のブログを作りました。

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