山下 二美子展 ― 玄黄 天の色・地の色 ― 2010年10月19日(火)~24日(日)奈良市アートスペース上三条


貴志カスケ(彫刻家)

天の色は玄で地の色は黄であるという「天地玄黄」が展覧会のテーマである。この言葉の表す意味として「天地(てんち)」は人間にかかわりあう世界すべてをひっくるめて表現する言葉である。「玄黄(げんこう)」はこれまた、玄(まっくろ、くらやみ)から黄(まばゆく明るい色)まで、すべてをひっくるめて言っているので、「明暗すべての色がある」と解釈できる。このような壮大なテーマを掲げて展覧会をする彼女はおおいにロマンティストなんだろう。彼女は美人で話しっぷりも大胆でかつ気風が良い。社会を見つめる目に厳しいものがある。それでいて彼女の子供を見る目は優しい。
優しい目はソフトな筆のタッチで子供を再現する。「玄黄・眠る子」などに描かれている子供はやわらかい肌を持った無垢な子供である。でも子供の取り巻く周囲はやさしさだけでは収まらない。明暗すべてが覆いつくす世界である。その世界は暗闇の中から炎が立ち上がってきたような赤い色彩で覆われる。この子の取り巻く環境や未来は決して軽やかな明るいものではない。厳しい状況の中から立ち上がる力、わきあがってくる力を感じさせる作品である。
同様のイメージの絵画がいくつかあった。「少女のある朝焼け」「いちにち」は広島で被爆した児童の顔を用いて明暗を現している。この場合、玄から赤に。赤は原爆に対する怒りを現しているのであろう。
ブルーをベースにした作品もいくつかあった。「ON THA BLUE」「雪の便り」シリーズ、これらは赤い情熱的な怒りとは違う知的な怒りを感じさせる作品である。
全体の展覧会のイメージは玄(まっくろ、くらやみ)から燃え上がろうとする炎を感じさせるものであった。赤い色が強烈に印象に残る展覧会である。赤の力強さの中に子供や蝉の描写が心をなごませるやさしさに出会う。会場を立ち去るころには、きちんと背筋を伸ばさなくてはいられないような、そんな気がした展覧会であった。

貴志カスケ(彫刻家)