九州、魅惑の個人ミュージアムを訪ねて  -不思議博物館とカボチャドキヤ国立美術館-

古沢ゆりあ (九州大学大学院・藝術学専修)

今回は、福岡県にある魅力あふれる小さなミュージアムをふたつ紹介します。どちらもアーティストご本人が館長として自作を展示している場所です。地方だったり開館時間が限られていたり、誰にとっても行きやすいというわけではありませんが、それだからこそ知る人ぞ知る貴重な空間です。作品世界に浸り、作者とお話ししながら作品を観るという贅沢な鑑賞体験が出来るでしょう。

 

不思議博物館

福岡市の中心部から20キロほど離れた那珂川町の山の中にその博物館はある。もよりの駅から一時間に一本のバスで30分、さらに坂道を歩くこと30分、たどりついた先にある建物の階段を昇って赤い扉を開くと・・・、巨大くまむし!?古代生物!?不思議少女!? そこには造形作家・角(すみ)孝(たか)政(まさ)氏のめくるめく世界が広がっています。
 不思議博物館は、1998年にネット上の仮想博物館として登場し、2005年の福岡トリエンナーレ3(福岡アジア美術館)で「不思議博物館・展示室A」として実体となり、2008年に現在のようなかたちで那珂川町に開館しました。
 展示作品のなかで目玉のひとつは「巨大くまむし」でしょう(2010年9月まで萩博物館へ出張中のため不在)。くまむしとは、過酷な環境下でも生存できる微生物ですが、それがなんと一兆倍(4.2m)に拡大されて立体作品になっています(写真1)。また、「巨大クリムゾン」は、伝説のゲーム「デスクリムゾン」を巨大コントローラーでプレイできる体験型作品です(写真2)。一方、片隅で存在感を放っているのが、「館長が中学2年生の時に学校の図工に時間に造ったお面」。緑色のニガウリのような怪人が不気味な笑みをたたえています。
 不思議博物館にはカフェのコーナーもあり、作品世界を反映したメニューも楽しめます。例えば、くまむし(の形のチョコアイス)がのったパフェ(\800)。器もオリジナルの「根カップ」です。(写真3)形はびっくりですが、すごくおいしいですよ。カフェでは「不思議子ちゃん」がメニューを運んでくれます。ちなみに、公式サイトには「日本で最も行く事が困難なメイドカフェ」との一文も・・・。
 きさくな館長さんは、作品について解説して下さったり、マニアックな話に興じたり。(写真4)現代美術の好きな人だけでなく、不思議なもの変わったものが好きな人、カフェや図書コーナーに入りびたりたい人にも不思議博物館はおすすめです。

不思議博物館
〒811-1246 福岡県筑紫郡那珂川町西畑1466-2
開館日時:日曜・祝日 12:00~18:00
入館料:無料

ホームページ http://www.asahi-net.or.jp/~bu9t-sm/

 

 

カボチャドキヤ国立美術館

レトロな町並みとバナナのたたき売りで知られる北九州の港町、門司。この町にカボチャの王国があるのをごぞんじですか。JR門司港駅から徒歩20分あまり、住宅街の中にかわいらしい黄色の洋館が・・・。ここがカボチャドキヤ国立美術館です。(写真5)
 美術館の中は、館長のトーナス・カボチャラダムスこと川原田(かわはらだ)徹(とおる)氏が統治する王国カボチャドキヤ。(写真6)細かく描き込まれた油彩や版画の作品の中では、カボチャの人々がカボチャの町に、わいわいがやがや暮らしています。軒を連ねるお店で買い物をする人々、通りで遊ぶ子供たち。よく見てみると、地元に実在するお店もちらほら、栄町商店街、平民食堂、中華料理萬龍・・・。食べたり飲んだり遊んだり働いたり、カボチャドキヤの人々は、生のエネルギーにあふれています。(写真7、8)
 川原田氏は、かつては建築家を目指して東大で勉強していたこともありましたが、その後絵画制作の道を進み、カボチャをテーマに絵を描き続けています。カボチャとは生命を生み育んでいく、すべてのもののお母さんのような存在だと語るカボチャラダムス氏は、本の出版や展覧会などでも評価を得、独特の世界観をもつ作品には多くのファンがいます。
また、カボチャドキヤは、作者が幼い頃から住んでいる門司の町に着想をえているそうです。カボチャドキヤは門司でもあり、門司はカボチャドキヤでもある。しかし、実際の門司の町では、かつて港によって町が繁栄した時代の古い建物が次々となくなっていき、昔ながらの町並みは年々失われていっています。そうしたなか、取り壊される予定だった建物のひとつが、それを惜しんだ人々の手でこの美術館に生まれ変わり、2002年に開館したのです。地元の人々の願いから誕生し、市民の手で運営されているこの美術館は、地域に根付いた美術館といえるでしょう。
 美術館を見おわって、坂道をくだり駅へと向かう道すがら、海をのぞむ丘の斜面に瓦屋根の家々がくっつくように並んでいる風景が、なんだかカボチャドキヤに見えてくるのでした。みなさんもぜひ一度、カボチャドキヤをおとずれてみませんか。

カボチャドキヤ国立美術館
〒801-0872 北九州市門司区谷町2-6-32
TEL/FAX 093-331-5003
開館日時:土曜・祝日(または振休) 11:00~16:00
入館料:300円、中高生100円、小学生以下無料