「MOTコレクション クロニクル1947-1963 アンデパンダンの時代」を企画して

藤井亜紀(東京都現代美術館学芸員)

チラシ デザイン:森 大志郎
チラシ デザイン:森 大志郎

Mot Collection
クロニクル1947-1963|アンデパンダンの時代
Chronicle 1947-1963|Days of Independent Art exhibitions
前期:2010年10月29日―2011年1月30日|
後期:2011年2月26日―5月8日

東京都現代美術館|常設展示室

はじめに
現在、東京都現代美術館の常設展示室では、「MOTコレクション クロニクル1947-1963 アンデパンダンの時代」と題した展示を行っています。これは、1947年に始まり現在に続く日本美術会主催のアンデパンダン展と、1949年に始まり、1963年に終わった読売新聞社主催のアンデパンダン展に焦点をあて、収蔵作品を中心として、これら展覧会への出品作品と関連作品約90点ならびに資料約100点により構成したものです。展覧会を開催するにあたり、日本美術会の方々から、多くのご教示ならびにご助力をいただきました。この場をかりて御礼を申し上げますとともに、当館の展示についてご紹介いたします。

1.常設展示、とくに「クロニクル」の展示について
当館は、1995年の3月に江東区木場に開館しました。現在、収蔵作品は約4000点に上りますが、そのうちの約3000点は、東京都美術館より引き継いだものです。そうして開館以来、約10年にわたって、「日本の美術、世界の美術-この50年の歩み」と題した常設展示を続けてきました。そこでは、収蔵作品を中心におおよそ10年ごとに特徴的な美術動向を紹介することを目的としていました。それは、都美術館時代に、企画展の「現代美術の動向」シリーズとして、10年刻みに戦後の美術を取り上げ、それによって日本の戦後における前衛美術の言説化と普及化がなされたことが基礎になっています。この「クロニクル」という常設展示も、そこに連なるものです。「クロニクル」には、「年代記、編年記」、「出来事を年代順に記録する」といった意味があります。ある年代を手がかりとすることで、これまでの語り口をなぞるのではない別の語り口の可能性を探ること、それによって戦後日本の美術をより丁寧に見直すことを目的として、昨年度よりこのシリーズをはじめました。

2.アンデパンダンの時代
今年度は、「アンデパンダン」に焦点を当てています。アンデパンダン展という無審査・自由出品による場が設けられたがゆえに、そこから多くの新人作家が生まれ、戦後日本美術の潮流が作られたと考えるからです。けれども、これまで当館では読売新聞社主催の展覧会を中心に紹介してきました。その理由として、戦後の前衛美術を紹介する上で、「反芸術」という切り口を重視していたこと、コレクションのなかに日本美術会にかかわる作家・作品が乏しいことなどが上げられます。それは主に政治性を抜きにした「前衛」美術を語ってきたことにも繋がります。したがって今回は、日本美術会のアンデパンダン展も取り上げること、収蔵作品のなかから二つのアンデパンダンの出品作品や関連作品を掬い上げること、収蔵作品では足りない部分を借用によって僅かながら補うことを試みました。それによって、「反芸術」的動向に先行する二つのアンデパンダンを対比させながら、作家の創造と発表を促す貴重な場としての役割をあぶりだすこと、そこで作家の実感がどのように作品に託され残されたかをみつめることを意図しました。

3.作品と展覧会構成
常設展示ゆえに、収蔵作品を最大限に活かすことが第一義でありますが、日本美術会にかかわる作家・作品が乏しいことから、会の先生方やご遺族の方々、所蔵諸機関のご教示とご助力のもと、永井潔先生、大塚睦先生、山下菊二先生、上野誠先生、内田巌先生、高山良策先生、新海覚雄先生の作品ならびに関連資料を拝借し展示することができました。後期には、桂川寛先生、尾藤豊先生の作品が加わる予定です。構成としては、最初の一室で日本美術会のアンデパンダンに関わる作品を紹介しています。制作年順に作品間隔を均等に展示してみました。ちなみに、作品のそばには作家の所属、二つのアンデパンダン展への出品歴、展示作品の出品歴を記したキャプションをつけていますので、ご鑑賞の参考にしていただければ幸いです。次の部屋では、読売新聞社主催の展覧会初期に出品を重ねた作家を紹介しています。またここでは、日本美術会と読売新聞社とのアンデパンダンをめぐる問題に関する資料も展示しています。さらに、両方のアンデパンダンで注目を集めた新人である「アンデパンダン作家」の作品やグループ展の資料、彼らの表現の起源と見做しうる近代の「異端の画家たち」、そして「アンデパンダン作家」に代わって登場してきた「反芸術」の作家作品へと続きます。最後に、作品を残し見せるという美術館の役割を強調するため、読売アンデパンダンに出品歴をもち、近年再制作や修復をすることで活かしてきた作品を展示しました。

4.批判と課題
展覧会がはじまって約1ヶ月が過ぎましたが、様々なご意見をいただいています。展覧会を行っても、その批評に乏しい昨今において、率直なご意見には傾聴すべきことが多々あります。それは、美術館にとっての課題となるからです。そのなかには、当時の熱気がまるで感じられないというご批判がありました。この展覧会の目的は、アンデパンダンを再現することではありません。アンデパンダンといえば読売や反芸術を想起する、そうした語り口を見直すこと、そのためにも日本美術会のアンデパンダンを含め相対的にこの時代の美術を捉え、再検証することにあります。ただ、当時の時代状況と切り離すことのできない日本美術会のアンデパンダンの紹介を、その社会的政治的背景を含めて充実させる方法がもっとあったのではないかと感じています。こうした反省や課題は、次回以降の「クロニクル」を企画する動機になります。このような展覧会を企画することで、歴史を語ることの難しさとともに、美術館が自ずともってしまう価値判断や権威付けについて再認識させられました。

最後に、このように開かれた場で展覧会について書かせていただいたことに感謝申し上げますとともに、多くの方にお運びいただき、ご意見をお寄せいただければ幸甚でございます。